フィッツジェラルドの短編集。そう言えば読んだことないやつだなと思い、Kindle版で購入。
表題作始め、ギャツビーや新潮社の短編集では味わえない変わったテイストの話が多い。
「ベンジャミン・バトン-数奇な人生-」は、ある夫婦に赤ん坊が生まれるが、70歳の容姿で生まれ、成長する都度若返っていくというSF的な一品。こういうのも書いていたんだなぁ、と素直に感心。父親から疎まれていた生後だが、徐々に見た目の歳が近くなると親密さが増してくるという変化もあれば、ベンジャミンの息子とは当初兄弟のように並んで仲睦まじかったのが、息子の成長と反比例して幼くなっていくベンジャミンとは溝が深まるばかり。その辺のペーソスが凝縮されている。
他の作品は、正直、シナリオを安売りしていたことを裏付けるかのように、幾分安っぽく、薄っぺらい印象が強い。
それでも「最後の美女」では、サリー・キャロルという名前でアメリカ南部・北部の人の生き方の違いを描いた「氷の宮殿」を思い起こし、「異邦人」では少しずつ確実に何かが失われていく夫婦の様から「ギャツビー」や「バビロン再訪」で味わった喪失感を垣間見たり、「家具工房の外で」の父娘のやり取りは、どこか「乗り継ぎのための三時間」での会話劇のよう。
色々、引き合いとして並べては見たものの、「短編集」や「ギャツビー」の域には程遠く、フィッツジェラルド自身の喪失を見ているようで悲しい。