スザンヌ・ヴェガの3作目。原題、Days Of Open Hand。
前作で「ルカ(Luka)」がヒットし、80年代のネオアコブームの火付け役ともなったが、ネオアコ的なのはギリギリここまで。
自分は前作と本作どちらを先に聴いたのかおぼろげだが、当時NHKでBook of Dreamsの演奏シーンを観たことがあったと思う。それで、本作を先に買ったような...
音作りとしては彼女のギター、ボーカルを中心にというのはこれまでどおりだが、シンセで全体的にかぶせる感じのアレンジが増えたと思う。今思うと次作でガラっと印象変える前哨戦というか、いつまでも同じではいけないという意識で変化を加えてきたのだろう。
冒頭の「眠り疲れて(Tired of Sleeping)」はいかにもスザンヌ・ヴェガという感じのアコギのストロークが冴えた傑作。キーボードも味を増すアレンジで素晴らしい。エンディングの歌い方にグッとくる。
「戦争の男たち(Men in a War)」はファースト・アルバムの「マレーネの肖像」を思い起こさせる。シンプルながら曲に勢いを与える間奏・エンディングの歯切れのいいエレキ・ギターのフレーズがいいアレンジ。
3曲目の「さびたパイプ(Rusted
Pipe)」。これが本作全体のイメージを表している感じがする。ギターが鳴るその上にオルガンが空間を覆っていくような、そしてややマイナーというか退廃的な雰囲気。洒落たサビもあるんだけど、どこか地味目な印象がぬぐえない。「しなやかな娘たち(Those
Whole Girls (Run In Grace))」も同じような印象。曲終わりのRun In
Grace...と続くところも以前は幾分退屈に感じられたんですな。この辺が好きかどうかで本作への入れ込み方は変わってくると思う。
昔聴いてた際には、A面側は強く、B面側がイマイチ弱く感じてた。特に5曲目「緑の建物(Institution
Green)」などあまり面白くないなぁと思って聴いていたが、久しぶりにちゃんと聴くとリムなのかパーカッションなのか、あのパシっとしたリズムがいいというか曲の魅力に気付いたというか、イマイチに思っていてごめんね、と反省。
「町はずれの部屋(Room
Off The Street)」は、手拍子か腿でも叩いているのか、軽やかな3拍子のリズムが印象的。サビのEvery sigh, every
swayのじわっと盛り上げるところがいい。どことなくZabadakもやりそうな曲だなと思った。
「フィフティー・フィフティー・チャンス(Fifty-fifty
Chance)」は、ストリングス・アレンジがいい。特にチェロがリズミカルに刻んでいくとこが好き。次作「微熱」で取り組んだような、「インダストリアル」なアレンジでも化けそうなポテンシャルを持っていると思う。
ラストを飾る「遍歴(Pilgrimage)」も3拍子が心地よいアコースティックな小品。
本作のイチオシは「ブック・オブ・ドリームス(Book of Dreams)」。前作の雰囲気もありつつ適度にポップ。アルバムタイトルが歌詞にもあり、本人もこの曲が主軸なんでしょう。冒頭の「眠り疲れて」とこの「ブック・オブ・ドリームス」がハイライトだと思う。
なんだかんだ言って今回数回とおして聴き直してしまった。派手な曲に耳が奪われ、B面というか後半の曲の良さが長らく分かっておらず、見直すきっかけとなって良かった。
スザンヌ・ヴェガは5枚目ぐらいまでしか聴いてないけど、なんだかんだで2作目と4作目を聴き返す感じがする。本作をこんなに聴いたのは久しぶり。
昔は4枚目の「微熱」を聴いたときは「うわぁ、変わっちまったなぁ...」みたいにショックだったんだけど、繰り返しきいているうちにクセになり、これぐらいのアレンジで丁度いいとか思ってしまった。「微熱」についてはそのうち綴りたいと思います。