2014年8月29日金曜日

モンキー ビジネス 2008 Fall vol.3 サリンジャー号

なぜ2008年の雑誌(ムック?)の話かというと、これが丸々1冊、ナイン・ストーリーズだから。

訳は柴田元幸。米文学の翻訳者としては異論なく、むしろ歓迎。

久々通して読んだナイン・ストーリーズですが、訳が変わったところで名作に変わりなし。

今までどちらかというとさらりと流していた「エスキモーとの戦争前夜(野崎訳では対エスキモー戦争の前夜)」がしっくり来て、良い。

言葉選びの部分では、題名に思い切りさが伺える。コネチカットのアンクル・ウィギリー(野崎訳コネティカットのひょこひょこおじさん)、ディンギーで(小舟のほとりで)のように、結構思い切ったな、と。一読した限りでは、この思い切りがなかなか腑に落ちていかないんだけど、そのうち馴染むのかな?

文中でも我が至上の短編、「笑い男」ではコマンチ団がコマンチ族になって正直違和感があったが、インディアンであれば族の方がよりアメリカンでいいのかもしれない。団長が最後のくだりを語った後の読み手にも空気として伝えられる余韻は変わらない。

余韻という点では、トリを飾る「テディ」も抜きん出ている。そしてまた最初のページに戻り、「バナナフィッシュ日和」のシーモアの会話に耳を立ててしまったりする。

野崎訳に定評があると勝手に思ってますが、こんな風に新訳が出て新たな読者に向けてその作品が広まったり、従来の読者に新たな一面を見せつける、というのも定番の魅力かな。