ジム・フジーリによるBeach Boys本。Brian WilsonがPet Soundsを制作するまでの葛藤がよく描かれており、USロック, Beach Boysをこよなく愛する村上春樹の訳で堪能できる。
バイオグラフィ的な面もあるが、ファンであれば大抵は既に語り尽くされている事実ではあるが、本書の構成というか章立てがよく、文体もさほど村上小説していなく、読みやすい。
フジーリが1ファンとして感じたBrianの脆さ、サーフィン&ホットロッド路線でバンドが始まり、Brianの音楽性の成長、広がりと共に単なる3分ポップから、深みのある芸術性への昇華に近づこうとする努力と苦悩が、丁寧に、かつ、くどくなく描かれている。
改めてBrianの先見性故に孤立する様が痛々しい。ライバルであったBeatlesがLennon-McCartneyという強力なラインティング・チームでバンド内でも音楽性の研鑽が進んでいたのに比べ、唯一の天才Brianはプロフェッショナルさを追求し、ライティング・パートナーやプレイヤーを外部に求め、結果自らの居場所を狭めてしまう。
この差は大きく、BrianはPet Soundsは生み出せたものの、さらなる音楽性のの結晶となるはずだったSmileにはたどり着けなかった。しかし、BeatlesはSgt. Pepperで頂点を極めるに終わらず、Abbey Roadという更なる高みに到達した。
村上春樹の長めの訳者あとがきの締めの一文が、すべてを表している。
「聴いてみてください。聴く価値のあるアルバムです。そして何度も聴き返す価値あるアルバムです。」